入院形態(精神保健福祉法)は、こう覚えよう
今回の過去問は精神保健福祉法に基づく入院形態についての問題です。入院形態に関する問題は頻出なのでここでしっかりと覚えておくと得点につながります。
法律の問題なので苦手意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。でも覚えなければならないポイントははそれほど多くありません。大事なのはそれぞれの入院形態のイメージを持つ事です。精神科経験20年のベテランナースがしっかり整理して解説いたしますので安心してください。
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づく入院形態で正しいのはどれか2つ選べ(112回 午前88問)
1・応急入院は72時時間以内に限られている
2・緊急措置入院中の患者は本人と家族が希望すれば退院できる。
3・措置入院中の患者は精神医療審査会へ退院請求を申し出ることができる。
4.精神保健指定医は任意入院中の患者について入院継続を必要と判断しても、退院を制限できない
5・医療保護入院のためには入院の必要性に関する2名の精神保健指定医の一致した判断が必要である
解答と解説
正答率60%の問題です。精神科ナースなないろの解説をご覧いただいた皆さんには、できれば取りこぼしなく正解していただきたい問題です。
1・応急入院の入院時間
〇 正しい
応急入院とは、すぐに入院の必要があるけれど任意入院はできない(本人の同意ができない)けれど、保護者の同意も得られない時の入院方法です。応急入院では精神保健指定医(以下指定医)の診察があれば72時間(3日間)特定医師の診察があれば12時間まで入院する事ができます
本人の意思によらない入院や行動制限を行う事のできる医師のこと。一定の実務経験と研修を経て厚生労働大臣に指定されます。
厚生労働者が定めた基準を満たす精神科の経験をもった医師のこと。
精神科医療では入院に同意できない患者さんに対しても入院していただく必要がある場合があります。保護者の同意がすぐにとれない場合でも指定医の診察によって応急的に入院していただく事ができます。
その後72時間(3日間)の猶予があれば家族を呼び寄せて医療保護入院に切り替える事が可能です。患者さんのための入院なのですが強制入院である事には変わりません。本人に成り代わって保護者の同意を得ることで人権に配慮しているのです。
2・緊急措置入院の同意者
✕ 誤り
緊急措置入院は医療に自ら頼る事のできない患者さんを、急速に入院させなければならないときに指定医1名の診察で緊急に行う入院です。措置入院と同じく都道府県知事の権限と責任をもって行う行政処分なので強制力があります。なので同意者は本人でも家族でもないため、希望しても退院することはできないのです。
措置入院(緊急措置入院)の診察時にはたいての場合、警察官が立ち会ってくれます。病院側も院内の男性看護スタッフを呼び集めて備えます。患者さんが暴れたり、逃げたりする可能性もあるので医療スタッフにも緊張がはしります。皆さんも緊迫した診察のシーンを想像してイメージを膨らましてみて下さいね。
緊急措置入院は自傷・他害のおそれが著しく、急速な入院が必要である場合に指定医1名の診察によって入院が可能になるのですが、入院期間は72時間に限られるものです。例えば週末などで指定医が1名しか出勤していない場合でも、72時間の猶予があれば週明けに出勤した指定医の診察があり、診断の結果が一致すれば措置入院に切り替える事が可能です。こうして人権と社会の安全のバランスに配慮した医療が行われるのです。
3・退院請求
〇 正しい
精神科に入院中の全ての患者さんまた家族はは、精神医療審査会に退院請求や処遇改善を求めることができます。
退院請求の流れをおおまかに言うと、入院に対し不服がある患者さんはまず医師などの医療従事者に退院したいと希望を伝えます。それがかなわない場合、精神医療審査会へ退院請求を書面にて行う事になります。書類は病院に準備してあります。患者さんから求めがあれば拒否することはできません。請求が受理されると、精神医療審査会は病院や本人より意見を聴取後に審査へ移ります。審査の結果は本人および病院管理者へ通知されます。
実は退院請求により退院が認められたケース、私はまだ経験したことがありません。たいていの場合、精神症状が強い患者さんが症状に左右されて退院請求に至るケースがほとんどです。やはりという感じですが、審査会からも退院は認められないと通知が来るのです。
4・任意入院の退院制限
✕ 誤り
任意入院の患者さんの入院は本人の意思によるものなので、基本的には退院の要求があったら退院されなければなりません。ただし指定医が入院の継続の必要があると判断した場合には72時間に限りその患者を退院させないことができます。
入院時には比較的症状がおちついて任意入院した患者さんでも、入院中の経過によって精神症状が悪化してしまうことも少なくありません。そのような患者さんを退院させる訳にはいきません。勘の良い皆さんであればもうおわかりですね?そうです。この72時間のあいだに保護者に連絡をとり、同意していただいたうえで医療保護入院に切り替えることを目指していきます。
緊急措置入院 応急入院 入院の継続が必要な任意入院 ぜひ覚えましょう。
5・医療保護入院の要件
✕ 誤り
医療保護入院の要件は指定医1人の診断と、保護者(家族など)の同意が必要になります。
設問のように指定医2人の判断が一致する必要があるのは措置入院の時でしたよね?そして措置入院の同意者は都道府県知事です。
まとめ
入院形態 | 対象者 | 要件 |
---|---|---|
措置入院/緊急措置入院 | 自傷他害のおそれがある精神障害者 | 精神保健指定医2名の診断の結果が一致した場合に都道府県知事が措置入院を決定。/ 緊急措置入院は、急速な入院の必要性があることが条件で、指定医の診察は1名で足りるが入院期間は72時間以内に制限される。 |
医療保護入院 | 自傷他害のおそれはないが、任意入院を行う状態にない精神障害者 | 精神保健指定医(又は特定医師)の診察及び保護者(又は扶養義務者)の同意が必要。特定医師による診察の場合は12時間まで。 |
応急入院 | 任意入院を行う状態になく、急速を要し、保護者の同意が得られない精神障害者 | 精神保健指定医(又は特定医師)の診察が必要。入院期間は72時間以内に制限。特定医師による診察の場合は12時間まで。 |
任意入院 | 入院について、本人の同意がある精神障害者 | 精神保健指定医の診察は不要。 |
看護師国家試験122回 午前88問 「精神福祉法に基づく入院形態」についての問題について解説してきました。自分の意思によらない入院ですので人権に大きくかかわる問題です。患者さんの状態に合わせた入院形態にできるよう、あらゆる配慮がなされているのがおわかりいただけたでしょうか。
精神科ナースなないろが看護師国家試験において精神科の入院形態の問題が毎年のように出題される背景にはこのような理由があると考えています。
精神科病院の入院中は、入院形態によって制限の内容が異なります。看護師は制限の範囲内で、患者さんの「安全」と「安心できる療養環境」を提供しなければなりません。患者さんに適切な医療を提供するための看護介入を行うには入院形態をきちんと把握することが必須なのです。
以上みなさんの「看護師になる→かんなる」を応援するナース【なないろ】でした。