うつ病

精神看護で求められる「患者の心に寄り添う言葉」:看護師国家試験113回午後109~111問(状況設定)

nanairo

第113回 午後109問:このときの看護師の対応で適切なのはどれか

次の文を読み問題1に答えよ。

Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。

問題1
このときの看護師の対応で適切なのはどれか。

1. 「生きていれば良いことがありますよ」

2. 「薬を飲むと数日で効いて楽になります」

3. 「悲しいことが続くときは誰にでもあります」

4. 「Aさんがつらい状況にあることを私は心配しています」

第113回 午後109問の解答と解説

Aさん(65歳)は、仕事の失敗や妻からの指摘によって自信を喪失し、希死念慮を持った患者です。自殺未遂後、精神科病院を受診し、受診当日に入院となり、うつ病と診断されました。現在は入院中で、強い無力感や孤独感を抱えています。

精神科看護では、患者さんの気持ちに寄り添う姿勢が非常に重要です。特に、希死念慮を抱える患者さんには、看護師の言葉一つ一つが大きな影響を与えるため、表面的な励ましや一般的な言葉では、かえって「気持ちが理解されていない」と感じさせてしまうことがあります。

患者さんのつらさを否定せず、そのまま受け止めることが、信頼関係を築く第一歩です。たとえば、「私はAさんが心配です」という言葉は、患者さんに「自分のことを気にかけてもらえている」という安心感を与えます。こうした関わりは、患者さんが孤独や無力感から抜け出すきっかけとなるだけでなく、自分の価値を再確認するための第一歩ともなります。このような丁寧な関わりが、患者さんに希望や安心感を提供し、治療意欲を高める土台となります。

1. 「生きていれば良いことがありますよ」

✖ 誤り

Aさんのように、「生きていても仕方がない」と感じている患者さんには、この言葉は逆効果です。励ましに聞こえても、つらさに寄り添っていないため、「理解されていない」と感じさせてしまいます。

2. 「薬を飲むと数日で効いて楽になります」

✖ 誤り

抗うつ薬の効果は通常2~4週間かかるため、この言葉は患者さんに過剰な期待を抱かせ、効果を感じられなかった際に失望させる恐れがあります。

加えて、患者さんの気持ちに共感しているとは言えません。

3. 「悲しいことが続くときは誰にでもあります」

✖ 誤り

「誰にでもある」という一般化は、患者さんの個別のつらさを軽視しているように受け取られる可能性があります。患者さんにとって重要なのは、「自分の気持ちがしっかり受け止められている」と感じられることです。

4. 「Aさんがつらい状況にあることを私は心配しています」

〇 正しい

この言葉は、Aさんのつらさを否定せず、「あなたを気にかけている」というメッセージを伝える適切な対応です。孤独感や無力感を抱える患者さんにとって、自分が受け入れられていると感じられることは、安心感と信頼につながります

第113回 午後110問:Aさんの状態で正しいのはどれか

次の文を読み問題2に答えよ。

Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。

問題2
Aさんはその後しばらく会話をしたり、食事も少し食べられたりしていたが、入院3日から、臥床したままで1日中全く動かず、昏迷状態になった。検査の結果、軽度の脱水以外の異常はなかった。治療として修正型電気けいれん療法が開始されることになり、実施後20分でAさんは覚醒し、その後の観察中にけいれん発作は認めなかった。実施後30分、Aさんは突然起き上がり興奮し、大きな声で「仕事に行く」と言って病室から出ていこうとした。看護師が制止し、一緒に座って話を聞いたところ、見当識障害、記憶障害、注意障害が認められた。

1. せん妄

2. 躁状態

3. 不安発作

4. 前向性健忘

第113回 午後110問の解答と解説

Aさん(65歳)は、仕事の失敗や妻からの指摘によって自信を喪失し、希死念慮があります。自殺未遂後に精神科病院を受診し、うつ病と診断され、入院しています。その後、治療の一環として修正型電気けいれん療法(mECT)が実施されました。

修正型電気けいれん療法(mECT)は、うつ病や統合失調症の治療に効果的ですが、施行後の患者観察が重要です。特に、せん妄の発生に注意が必要で、認知機能や行動の変化を見逃さないことが求められます。

せん妄は、見当識障害、注意障害、記憶障害を主な特徴とし、興奮や混乱が見られる場合に考慮されます。これに加え、頭痛や筋肉痛、吐き気といった身体的な副作用も起こる可能性があるため、患者の不快感を軽減しつつ慎重に観察を続けることが看護師の役割です。また、せん妄やけいれんの持続がないかを確認する必要があります。

1. せん妄

〇 正しい

急性かつ一過性の意識障害が特徴です。Aさんの場合、mECT後に見当識障害、記憶障害、注意障害が現れ、突然興奮して「仕事に行く」と話すなどの症状がありました。これらは典型的なせん妄の症状に当てはまります。

2. 躁状態

躁状態は双極性障害におけるエピソードで、異常な高揚感や活動性の増加が特徴です。しかし、Aさんのような見当識障害や記憶障害は躁状態には含まれません。mECT後に生じた一過性の症状であり、躁状態ではないと判断できます。

3. 不安発作

不安発作は、動悸や息切れ、恐怖感など身体的な症状を伴う発作です。Aさんの行動には不安や恐怖に関連する要素が見られず、不安発作の特徴とは一致しません。

4. 前向性健忘

前向性健忘は、新しい記憶を形成する能力が低下する症状ですが、Aさんの症状には見当識障害や注意障害が含まれています。これらはせん妄の一部であり、前向性健忘だけでは説明できません。

第113回 午後111問:Aさんへの治療法で最も適切なのはどれか

次の文を読み問題3に答えよ。

Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。

問題3
入院1か月が経過し、Aさんは夜間の睡眠がとれるようになり、食事は全量摂取している。妻から間違いを指摘されたことを思い出し、「何をやってもきっと失敗するだけだ。今度はもっと大きな失敗をして仕事を辞めることになる。だから自分はだめな人間だ。努力しても意味がない」と看護師に言った。

1. 森田療法

2. 集団精神療法

3. 認知行動療法

4. 社会生活技能訓練〈SST〉

第113回 午後111問の解答と解説

Aさん(65歳)は、仕事の失敗や妻からの指摘で自信を失い、希死念慮を持つようになりました。自殺未遂後に精神科病院を受診し、うつ病と診断され、入院しました。現在は治療が進み、夜間の睡眠がとれるようになり、食事も全量摂取していますが、「自分はだめな人間だ」といった自己否定的な思考が続いています。

精神科看護では、患者の心理状態に合わせた支援を提供するために、治療法への理解が欠かせません。この問題では、否定的な思考パターンを持つ患者に対して、どのような治療法が適用されるのかを知り、看護師としてどのように支援できるかを考える力を養います。治療法を理解することで、患者の思考や行動の変化に気づき、それを適切にサポートする看護が可能になります。

たとえば、認知行動療法(CBT)の場合、患者の否定的な思考パターンを修正することが目標となります。看護師は、CBTの基本的な考え方を理解しながら、患者の気づきや変化を見守り、日々の関わりの中で治療をサポートします。治療の進行状況を観察し、患者の不安や疑問を共有することも重要な役割です。

この問題を通じて、看護師が患者の心理状態を理解し、治療を支えるために必要な知識とスキルを学び、実践的な視点を養うことができます。

1. 森田療法

✖ 誤り

森田療法は、神経症や不安障害の治療に用いられる日本発祥の心理療法で、症状を受け入れつつ日常生活を送ることを重視します。しかし、Aさんのように「自分はだめな人間だ」といった否定的な思考パターンが強い場合には、認知の歪みを修正するアプローチがより適切です。

2. 集団精神療法

誤り

集団精神療法は、他者との交流を通じて自己理解を深める治療法です。Aさんのように自己否定的な思考が強い場合、まずは個別の認知の歪みを修正することが優先されます。その後、集団療法を取り入れることが効果的です。

3. 認知行動療法

〇 正しい

認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンや行動を修正することで、気分や行動の改善を図る治療法です。Aさんの「自分はだめな人間だ」といった否定的な認知は、うつ病の症状の一部であり、CBTを通じてこれらの思考パターンを修正することが期待されます。

4. 社会生活技能訓練〈SST〉

✖ 誤り

社会生活技能訓練(SST)は、対人関係や問題解決のスキルを向上させるための訓練です。Aさんの主な問題は自己否定的な思考パターンであり、まずは認知の歪みを修正することが優先されます。その後、SSTを取り入れることが効果的です。

まとめ

国家試験では、知識を覚えるだけでは解けない場面に直面することがあります。そのようなとき、「自分なら患者さんにどのように関わるべきか」を考える視点が問題解決の鍵となります。知識を活用しながら、患者さんの状況や心理を理解する力を磨いていくことが重要です。

特に精神科看護では、患者さんの心の声に耳を傾け、共感を持って関わる力が求められます。たった一言の声かけが、患者さんの安心感や信頼感に大きな影響を与えることを意識しながら、これからの看護の学びに取り組んでみてください。

試験対策を通じて、患者さんに寄り添う力を養い、看護の現場で活かせる実践的なスキルを身につけてください。

ABOUT ME
なないろ
なないろ
看護師(経験20年)
経験20年の看護師です。失業の危機→看護助手→准看護師→看護師へステップアップして人生が変わりました。 私の経験をもとに皆さんの看護師になるという決意→「かんなる」を応援するブログを運営しています。 どんな状況でもあなたの決意次第で必ず看護の道は開かれます。私と一緒に看護師人生の一歩を踏み出そう!
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