自閉症スペクトラム障害の職場課題と就労支援:看護師国家試験113回午前112~114問(状況設定)
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、対人関係や社会的コミュニケーションに独特の特徴を持つ発達障害です。
ASDの人は、相手の気持ちや言葉の裏にある意味を理解することが難しい場合があり、同じルーチンや特定の興味に強くこだわることもあります。
症状の現れ方は軽度から重度まで幅広く、一部の人は自立した生活を送る一方で、手厚い支援が必要な人もいます。
今回の問題では、職場での対人関係や日常生活での適応に苦しむAさんがASDと診断され、適切なサポートが求められる場面が取り上げられています。
ASDの特徴を理解して支援する問題ですが、どんな点が重要になるんですか?
ASDでは、まずコミュニケーションの障害に注意が必要ね。
Aさんの場合、対人関係に苦労しているわね。
同僚とうまくいかず、ストレスが溜まっているみたいです。
まずはAさんの気持ちをよく聞き出して、どんな支援が必要かを考えることが大事よ。
支援は一人ひとり違うということですね。同じ方法が全員に効果的とは限らないんですね。
就労支援サービスを通じて、Aさんに合った職場環境を見つけることも重要なポイントね。
ASDの人にはそれぞれに合った支援が必要なんですね。それじゃあ、Aさんの場合、具体的にはどんな支援が適切なんでしょうか?解説お願いします!
ここからは、Aさんの具体的な状況をもとに、国家試験問題を解説していきます。Aさんが抱える課題を理解しながら、それぞれの選択肢がどのように試験問題に関連しているかを確認しましょう。
第113回 午前112問: Aさんに認められるのはどれか。
次の文を読み問題1に答えよ。
Aさん(22歳、男性)は、高校卒業後に就職したが、同僚との関係がうまく築けず、転職を繰り返している。「他の人と自分はどこか違う。自分の将来が不安だ」と感じたAさんは精神科クリニックを受診し、自閉症スペクトラム障害と診断された。
Aさんは小学生のころから他人の気持ちが理解できないときがあり、対人関係を築くことが苦手で、学校で孤立していた。また、偏食が強く、るいそうがみられたために、同級生から容姿のことでいじめられたことがあった。中学校や高校では忘れ物が多く、集団生活になじめなかった。
問題1
Aさんに認められるのはどれか。
1.被害妄想
2.予期不安
3.ボディイメージの障害
4.コミュニケーションの障害
第113回 午前112問の解答と解説
Aさん(22歳、男性)は、自閉症スペクトラム障害と診断され、職場での対人関係に悩み、転職を繰り返しています。この問題では、Aさんに認められる障害が何かを問われています。
1.被害妄想
✖ 誤り
被害妄想は、他人が自分に対して害を及ぼそうとしているという誤った信念を強く抱く状態で統合失調症や認知症でよくみられます。
Aさんのケースでは同僚とうまくいかない、学校で孤立するなどの実際の経験に基づいた反応であるため、実際には存在しない脅威や攻撃を信じ込む被害妄想とは異なるものです。
2.予期不安
✖ 誤り
予期不安は、将来起こるかもしれない出来事に対して、過度に心配したり不安を感じる状態で不安障害やパニック障害などでみられます。
予期不安は、まだ起きていない未来の出来事に対して不安を感じるのに対し、Aさんの不安は過去の経験から「自分は他人と違う」という感覚に基づく不安を抱いていることから予期不安ではないと考えられます。
3.ボディイメージの障害
✖ 誤り
ボディイメージの障害は、自分の体について誤ったまたは極端な見方を持つ状態です。この障害では、自分の体を実際よりも太っている、醜い、または不格好だと感じることがあります。これにより、過度なダイエットや過剰な運動が行われたり、食事障害(摂食障害)に発展することがあります。
Aさんはるいそうにより容姿のことでいじめられた経験があります。しかしAさんのるいそうは、偏食による栄養不足によって起こっており、外見に対する認識のゆがみとは関係ありません。
4.コミュニケーションの障害
〇 正しい
自閉症スペクトラム障害におけるコミュニケーションの障害は、言語的・非言語的なやり取りに関する難しさが特徴です。
自閉症スペクトラム障害の人は、言葉や表情を使ったコミュニケーションがうまくできないことがあり、これが社会的な孤立や対人関係の困難さにつながることがあります。
Aさんは、職場や学校で対人関係を築くのが難しかったとされています。自閉症スペクトラム障害では会話の流れや相手の意図を理解するのが難しいため、Aさんが同僚やクラスメートとのコミュニケーションでうまくいかなかった可能性が高いです。
また、アイコンタクトや表情の読み取りが苦手であることが多いため、Aさんも他者の感情や意図を理解するのが難しかったかもしれません。これが原因で、相手から誤解され、結果として孤立したり、ターゲットにされやすかった可能性があります。
第113回 午前113問:Aさんへの説明で適切なのはどれか。
Aさんは、就職後に同僚との関係に悩み、転職を繰り返しています。「他の人と自分はどこか違う」と不安を抱いたAさんは精神科を受診し、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されました。現在は無職で、自分に合った職場を見つけたいと希望しています。
この問題では、AさんのようにASDを抱える人が、仕事探しに向けて利用する就労支援サービスについて、どのような説明が適切かを問われています。ポイントは、就労支援サービスの目的や利用条件についての正しい知識を持ち、Aさんにとって効果的な支援が提供できるかどうかです。
次の文を読み問題2に答えよ。
Aさん(22歳、男性)は、高校卒業後に就職したが、同僚との関係がうまく築けず、転職を繰り返している。「他の人と自分はどこか違う。自分の将来が不安だ」と感じたAさんは精神科クリニックを受診し、自閉症スペクトラム障害と診断された。
Aさんは小学生のころから他人の気持ちが理解できないときがあり、対人関係を築くことが苦手で、学校で孤立していた。また、偏食が強く、るいそうがみられたために、同級生から容姿のことでいじめられたことがあった。中学校や高校では忘れ物が多く、集団生活になじめなかった。
問題2
クリニックに通院し半年が経過した。現在、Aさんは無職である。Aさんは仕事が長続きしないことで将来への不安が強く、自身の適性にあった職場を探したいと希望している。外来看護師は主治医とも相談し、Aさんに就労移行支援のサービスについて伝えることにした。
Aさんへの説明で適切なのはどれか。
1.「仕事が見つかるまで期限なく通所できます」
2.「同じ障害を持つ仲間との共同生活が原則です」
3.「一般就労に向けて知識や能力の向上を目指します」
4.「生活リズムを整え、集団に慣れていくことが目的です」
第113回 午前113問の解答と解説
1.「仕事が見つかるまで期限なく通所できます」
✖ 誤り
就労移行支援サービスは、原則として2年間の利用期間が設定されています。ただし、状況によっては市町村への申請により、最長で1年間の延長が可能です。したがって、無期限で通所し続けることはできません。
2.「同じ障害を持つ仲間との共同生活が原則です」
✖ 誤り
就労移行支援サービスにおいて、個別の支援計画に基づき、就労に向けた支援を提供するものであり、共同生活を前提としていません。共同生活が必要な場合はグループホームや障害者支援施設などのサービスが提供されることがあります。
3.「一般就労に向けて知識や能力の向上を目指します」
〇 正しい
就労移行支援サービスは、一般就労に向けて利用者が必要な知識や能力の向上を目指すプログラムを提供します。これには、仕事に必要なスキルや社会的スキルのトレーニング、履歴書の作成や面接の練習、また職場での実習などが含まれます。
4.「生活リズムを整え、集団に慣れていくことが目的です」
就労移行支援サービスは、主に就労に向けたスキルや能力の向上を目指すものです。生活リズムを整え、集団に慣れることを目的としたサービスには、自立訓練(生活訓練)や精神科デイケアなどがあります。
第113回 午前114問:Aさんへの対応で適切なのはどれか。
次の文を読み問題3に答えよ。
Aさん(22歳、男性)は、高校卒業後に就職したが、同僚との関係がうまく築けず、転職を繰り返している。「他の人と自分はどこか違う。自分の将来が不安だ」と感じたAさんは精神科クリニックを受診し、自閉症スペクトラム障害と診断された。
Aさんは小学生のころから他人の気持ちが理解できないときがあり、対人関係を築くことが苦手で、学校で孤立していた。また、偏食が強く、るいそうがみられたために、同級生から容姿のことでいじめられたことがあった。中学校や高校では忘れ物が多く、集団生活になじめなかった。
問題3
就労移行支援を利用し、Aさんは仕事を始めたが、苦手な仕事内容が多く、失敗が続いているため同僚から注意を受け続けている。外来看護師は、Aさんから「毎日が憂うつでつらい。ストレスが溜まるのでどうしたらよいか」と相談を受けた。
Aさんへの対応で適切なのはどれか。
1.仕事に慣れるまで待つように説明する。
2.憂うつな気分について詳しく話してもらう。
3.職場の同僚とうまく付き合う方法を考えてもらう。
4.外来看護師が行っているストレス発散方法を指導する。
第113回 午前114問の解答と解説
1.仕事に慣れるまで待つように説明する。
✖ 誤り
自閉症スペクトラム障害を持つ患者に対して、ただ待つだけの対応ではAさんのストレスはさらに蓄積し、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため積極的な支援や働きかけが必要です。
具体的にはAさんが感じているストレスの原因を特定し、職場での業務内容の調整や適切なサポートを提案する必要があります。
2.憂うつな気分について詳しく話してもらう。
〇 正しい
Aさんに「憂うつな気分」について話すよう促すことは、Aさんの心理的負担を軽減し、彼の状態をより深く理解するために重要です。
Aさんは職場でのストレスや対人関係の困難を抱えています。彼に憂うつな気分について話してもらうことで、Aさんが何にストレスを感じているのかを明確にし、適切なサポートが提供できるようになります。
具体的には、Aさんが仕事のどの部分で特に苦しんでいるのか、同僚との関係や仕事内容に対する感情などを聞くことで、問題の根本を特定し、彼に合った働き方やサポート体制を考えることができます。また、話をすることでAさん自身が自分の感情や問題に気付き、適切な対策を立てるための第一歩を踏み出すことができます。
3.職場の同僚とうまく付き合う方法を考えてもらう。
職場の同僚とうまく付き合う方法を考えてもらうという対応は、Aさんの現在の心の負担を直接軽減するものではなく、むしろ過度なプレッシャーを与える可能性がある
Aさんは現在、毎日が憂うつでつらいと感じており、仕事での失敗やストレスに苦しんでいる状態です。このような精神的に追い詰められている状況では、まず彼の精神的な状態に対するケアが優先されるべきです。
4.外来看護師が行っているストレス発散方法を指導する。
✖ 誤り
ストレス発散方法自体は役立つかもしれませんが、Aさんの現状では、心の状態を理解し、支援することが最も優先されるべき対応です。
Aさんは現在、深刻な憂うつ感やストレスを感じており、その原因や背景をしっかりと理解することが先決です。看護師自身が行っているストレス発散方法を指導することは、必ずしもAさんにとって効果的であるとは限りません。Aさんの状態に合った個別の対応が必要であり、まずはAさん自身の気持ちを詳しく聞き出し、適切なサポートを提供することが重要です
まとめ
今回の自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する看護師国家試験の問題は、ASD患者の職場でのコミュニケーションの障害とそれに対する適切な支援がテーマです。
この問題では、ASDの特徴である対人関係の困難さに対する理解と、患者個々に合った支援方法の提供が重要視されました。
特に、職場での対人関係における問題解決に向けて、就労移行支援など具体的な支援策が問われています。
試験問題全体の傾向として、文章の長文化と読解力が問われる傾向が強く、臨床的な判断力やアセスメント能力が必要とされています。
したがって、ASDに関する基礎知識だけでなく、個別のニーズに応じた支援方法を考える力が試される点に注目すべきです。